1.動物病院で夏に多い質問は
動物病院ではさまざまな質問が挙がります。特に夏には暑さ対策や夏バテについての質問が多く飛び交います。獣医師にとっては当たり前だと感じることであっても一般の飼い主にとっては分からないということがたくさんあると思います。日常生活で起きやすいトラブルもたくさんあるのでここで少しでも知らないこと、分からないことを減らし、大切な愛犬の体を守っていきましょう。
2.夏の暑さは犬の大敵
まず、犬の先祖であると言われている狼は北の大地が出身です。その影響から犬は暑い環境がとても苦手な生き物なのです。実際にあった例を3つ挙げて、どれほど犬にとって夏の暑さが大敵なのかを示したいと思います。
まず1つ目の例はお散歩をこよなく愛していた犬の話です。この犬はお散歩が大好きで毎日楽しくお散歩を続けていたのですがある日突然散歩を拒否するようになってしまいました。その原因は路面の暑さだったのです。犬は人間よりもはるかに地面に近い場所を歩いています。そのため犬が感じる暑さは人間の体感の約2倍となっています。特にアスファルトやコンクリートの上は蓄熱効果が高いがために日が沈んでからであっても暑いままです。つまり、この犬にとって散歩していた時間帯は暑すぎたということです。真夏にお散歩をするのであれば日が出てから1時間以内か日が沈んでから2時間以上遅らせるようにすると良いでしょう。犬に暑さの負担をかけないように散歩をさせることが大切です。
2つ目の例は室内で熱中症になってしまった犬の話です。この犬は飼い主が室内で気を付けているつもりだったのですが、熱中症にかかってしまいました。その原因は湿度だったのです。ちょうど梅雨の時期で湿度は90パーセントを超え、気温は25度程でした。これは人間であれば少し暑いなとは思うけれどなんとか我慢の出来る暑さです。しかし犬はふわふわの毛皮に覆われていて、体には汗をかくところもありません。そのため犬は体温調節をするのがとても苦手なのです。犬が体温を下げる場合は体を舐めて濡らし、水分を蒸発させて冷やす、舌を出して呼吸をし、舌にある血管を気化熱で冷やす、耳の血管を空気に触れさせて冷やすという行動を行います。しかしこの犬は湿度が高すぎたことによってこのような体温を下げる行動が出来ずに熱中症にかかってしまいました。湿度を調整してあげることも犬にとってはとても大切なのです。
最後の3つ目の例は毎年皮膚炎でボロボロになっていたゴールデンレトリバーの話です。飼い主は犬が暑さに弱いことをよく分かっていたのでエアコンを付けたりプールで泳がせたりして暑さ対策をしていました。それにも関わらず皮膚炎にかかってしまったのはその毛並みが原因だったのです。ゴールデンレトリバーの毛並みはダブルコートと呼ばれるものです。このダブルコートと言うのは外側の毛がつややかで内側には柔らかい毛がみっしりと生えるのです。この内側の毛には水を吸うとなかなか乾きにくいという特性があります。
そのため皮膚炎を起こしやすくなってしまうのです。この犬の飼い主もプールなどで泳がせた後はしっかりと乾かそうとしていても毛並みの付け根まではきちんと乾かせていませんでした。その乾かせていなかった場所は湿り気が残りやすく、皮膚炎へと繋がってしまったのです。その後、夏の間はサマーカットにすることで皮膚炎は治まるようになりました。このように夏は皮膚炎が悪化しやすい季節となっています。シャンプーをした後や水浴びをした後はしっかりと乾かすことが大切です。そして皮膚の状態に気を付けてあげるようにしましょう。
3.犬の夏バテって
人間にとっての夏バテは夏に食欲を失うことを指します。これは犬でも同じようなことが起こります。暑くなるといつもと同じ量を食べないという犬が増えてきます。このような場合はまず犬の様子をよく観察してあげるようにしましょう。その際に確かめることは食欲がある時と同じくらい活動的であるのか、気温の高い時間帯に食事を与えていないかということです。
そもそも犬の先祖である狼は夜明けや夕暮れ以降の薄暗い時間帯に活動を行います。その狼の特性を受け継いでいるため、夜明けが早く夕暮れが遅い夏にいつもの時間帯に食事を与えたとしても食欲がなくなってしまうのです。そのため夏の暑い時や犬が夏バテをしているなと感じる時は朝は早く、夜は遅く食事を与えるようにしましょう。
また、夏バテ対策としての間違った方法は食べないのが心配だからと言って美味しいものをあげてしまうことです。犬は一度覚えた贅沢は忘れません。お腹が空いても待っていれば美味しいものが出てくると勘違いをしてしまいます。犬はとても賢い生き物であるため美味しいものを食べるためであるなら多少の痩せ我慢もしてしまうのです。こうなると秋になっても冬になっても夏バテという状態が続いてしまいます。こうならないためにも夏バテかなと思った際は体重変化を見守ってあげることが大切です。
それは、犬が暑い夏の時期は動かずにカロリーを抑えているがために夏と冬で多少の体重差があるのが普通だからです。中型犬の場合は夏と冬で1キロから2キロの差が、小型犬の場合は500グラムから1キロの差が出てきます。なので犬が夏バテしてるかなと思った場合であっても体重変化を見守りながら食事はいつもと同じようにしましょう。もし、活動量と食事をあげる時間帯、体重を確認して夏バテだなと思うようであれば動物病院に連れて行きましょう。
まとめ
暑さと言うのは人間であっても辛いものです。けれども犬は多くの毛皮に覆われていて、汗をかけない体質を持っているため人間の何倍も苦しい思いをしています。そのような苦しい思いをさせる前の予防としてサマーカットにしてあげたり、エアコンやクールグッズを上手に使って体温を下げてあげましょう。また、散歩は夜明け前の涼しい時間帯にすると犬も苦しむことなく楽しい時間を過ごせるでしょう。このように大切な愛犬を暑さから守り、夏バテを予防してあげることが飼い主の重要な役割となっています。そのために日頃から愛犬の様子をよく観察し、異常はないかを確かめてあげることが大切です。