人間と同様、犬も高齢になると、腫瘍疾患にかかりやすくなります。腫瘍の中には悪性のものもあり、それを私たちはがん(悪性腫瘍)と呼びます。
がんにも様々な種類がありますが、今回は血液のがんである悪性のリンパ腫について解説します。
6歳~8歳の犬の発症率が多く、治療しない場合1~2カ月で死に至るおそろしい病気です。初期で気づくのが難しい病気ですが、万が一の時に適切な対応ができるよう、知識をつけておきましょう。
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もくじ
1.犬の死因のトップはがん
引用元:日本アニマル倶楽部 犬・猫 死亡原因病気TOP10
1位 がん 54%
2位 心臓病 17%
3位 腎不全 7%
4位 てんかん発作 5%
5位 肝臓疾患 5%
6位 胃拡張・胃捻転 4%
7位 糖尿病 3%
8位 アジソン病 2%
9位 クッシング病 2%
10位 突然死 1%
犬の死因第一位はがん(悪性腫瘍)で、半数以上の割合を占めています。がん(悪性腫瘍)の中には、骨にできるがん、皮膚にできるがん、血液のがんなどさまざまな種類があります。
年齢的には4歳から腫瘍疾患が増え始め、7~8歳では10匹に1匹、10歳では6匹に1匹ががん(悪性腫瘍)にかかっているとも言われており、高齢になるにしたがってがん(悪性腫瘍)が発生しやすくなることが分かっています。
人間と同様、犬も長生きをするとがんにかかりやすくなるようです。
2.がんにかかりやすい犬種があるって本当?
動物保険各社の調べによると、ゴールデンレトリーバーやパグ、ラブラドールレトリーバー、ミニチュアシュナウザー、フレンチブルドッグが、がん(悪性腫瘍)にかかりやすいと言われています。
しかし、これには科学的根拠があるわけではなく、犬種によっての発症率に違いがあるのかは解明されていません。犬の長寿化、高齢化によりどの犬種もがん(悪性腫瘍)になる可能性はあります。
日ごろから愛犬のボディーチェックを行い、定期的な健康診断をかかさないことが予防や病気の早期発見につながります。
3.発生しやすいがんの種類と症状
がん(悪性腫瘍)と言っても、内臓、骨、皮膚など発生する場所によって、さまざまな種類があります。犬に発生しやすいがん(悪性腫瘍)の種類と、それぞれの症状をまとめてみました。
・リンパ腫
最も多い犬のがん(悪性腫瘍)の一つにリンパ腫があります。これは血液中の白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化する病気です。そのため、特定の部位ではなく、全身のさまざまな場所で発生します。発生部位によって皮下にしこりとして現れる「多中心型」、皮膚炎のように見える「皮膚型」、腸に発生する「消化器型」などに区分されます。治療としては、抗がん剤治療が推奨されます。発生した部位によっては、摘出手術や放射線治療なども選択肢としてあります。
・肥満細胞腫
リンパ腫に並んで多いのが肥満細胞腫と言われています。「肥満細胞」という病名ですが、決して肥満の犬がかかるがんではありません。皮膚に発生する場合が最も多く、ほかには皮下や筋肉に発生したり、リンパ節などに転移したりする場合もあります。
・悪性黒色腫
いわゆる「メラノーマ」や「皮膚がん」と呼ばれるのがこの悪性黒色腫で、口の粘膜や肉球、爪などに発生します。犬の場合は口腔内にできることが多く、黒っぽい腫瘍ができるのが特徴です。
・悪性乳腺腫瘍
6歳以上のメスに多く、乳腺部にしこりができるのが特徴です。
犬の乳腺腫瘍は、約50%は良性の可能性があり、温存をするケースもありますが、悪性の場合は切除が必要です。
4.血液のガン『リンパ腫』とは?
前項でも紹介した通り、リンパ腫はひとことで言うと、血液のがん(悪性腫瘍)のこと。最も発生率が高い犬のがんの一つです。血液中の細胞成分は大きく分けると『赤血球』『白血球』『血小板』に分かれ、そのうちリンパ球は白血球に属し、主に免疫に関わる働きをもっています。リンパ腫とは、このリンパ球が腫瘍化してしまったものです。
リンパ球の腫瘍は大きく2つに分けられ、リンパ性白血病とリンパ腫があります。リンパ性白血病は腫瘍細胞が骨髄や血液の中で増えるため目に見える腫瘍のかたまりをつくりません。一方、リンパ腫はリンパ系組織の中で腫瘍のかたまり(しこり)をつくります。
リンパ腫はあらゆる年齢の犬で発生しますが、平均的には6~8歳といわれます。また、大型犬やゴールデンレトリーバーに特に発生が多いといわれていますが、小型犬もなりえます。
リンパ腫には、「これをしていたら絶対に予防できる」という予防法がないため、普段から愛犬とスキンシップを取り、しこりがないか、熱っぽさや食欲の減退などがないかなどを観察することが肝要です。治療法としては、抗がん剤治療が多く用いられ、そのほかに、発生する部位により外科手術(摘出手術)や、放射線治療を提案します。
- リンパ腫は、腫瘍のかたまり(しこり)をつくる
- 特定の臓器に病巣をつくることなく、増殖を続けながら血液に流れ込み、全身へ広がっていく
- 6~8歳の犬がかかりやすい
- 確かな予防法がないため、日頃から愛犬をよく観察し、ブラッシングなどのスキンシップで全身をチェックする
5.リンパ腫にも種類があり、治療が異なってくる
リンパ球はもともと全身に分布しており、リンパ腫も全身さまざまなところに発生します。発生した場所によっておこる症状が異なり、また、治療への反応や経過が異なることが分かっています。
犬にできるリンパ腫の約80%が体のリンパ節の複数が腫れる多中心型と呼ばれるものです。皮膚の下にあるリンパ節の腫れに気付いて、ご家族が動物病院を受診されるケースが多いです。
のどにあるリンパ節が腫れると呼吸がしづらくなったり、いびきをかいたりするようになります。進行すると、肝臓や脾臓・骨髄内へ入り込んでしまい、本来の機能を低下させてしまいます。無治療の場合の平均余命は1~2ヵ月とされています。
また、肝臓や腸・皮膚・腎臓・胸の中などにリンパ腫ができる場合もあります。
6.発生した場所による分類
犬に最も多い「多中心型リンパ腫」では、下あごや腋の下、股の内側、膝の裏など、体表のリンパ節が何か所も腫れるほか、元気が少しなくなる、食欲が少し低下するといった症状が見られます。
症状が進むにつれて、運動をしたがらなくなる、食欲がなくなる、嘔吐や下痢をするといった症状も見られるようになります。末期では痩せてきて、免疫力も低下し、肺炎や膀胱炎など、様々な感染症にもかかりやすくなります。
「消化器型リンパ腫」では、消化管のリンパ組織やリンパ節が腫れるもので、これにともない下痢や嘔吐、食欲不振などの消化器症状が見られます。
「皮膚型リンパ腫」では、皮膚に腫瘍として現れるもので、大きさの様々なできものや紅斑、脱毛など、様々な皮膚病変が表れます。皮膚型は、皮膚に腫瘍ができる脂肪腫や肥満細胞腫などの他の腫瘍や皮膚病などと見分けがつかないことがあります。
この他、「縦隔型リンパ腫」では、胸腔内にあるリンパ組織が腫れるもので、これにともなって呼吸の回数が増加したり、咳をしたりといった呼吸器症状が見られます。
7.検査方法
リンパ腫に限らず、がん(悪性腫瘍)は診断するためにさまざまな検査を行います。血液検査のほか、身体検査では、体重測定、検温、心音・呼吸音の観察、全身の触診などを行います。皮膚や皮下にしこりなどある場合は、さらに検査をしていきます。
リンパ腫の診断は細胞の検査(針吸引検査)でわかります。どこまで病変が広がっているかどうか調べるために肝臓、脾臓などの針吸引検査や骨髄検査を行います。また、他に病気がないかどうかを調べるために獣医師の判断で、その他の検査を行います。
- 注射器でしこりの部分の細胞をとり、調べてもらう(細胞診、針吸引検査)
- 1週間前後で結果が分かる
- その他、どこまでがんが進行しているか調べるため、血液検査・レントゲンなど複数の検査を獣医師の判断で行う
8.症状
(1)初期症状:リンパ腫のはれ、しこり
初期症状だと食欲も普通にあるので、病気に気づくのはとても難しいといえるでしょう。しかし、愛犬とのスキンシップの中でしこりに気づき、動物病院に連れて来て早期発見できるパターンも多いようです。
首や顎、かかとや足の付け根にあるリンパ節の腫れは飼い主さんでも分かりやすく見付けやすいです。
健康な犬のリンパ節は、普段は表に出ていないので触っても分かりませんが、腫れてくると丸いボコっとしたものが触れるようになります。
健康チェックの習慣として愛犬に毎日触っておくことで、異変に気付きやすく病気の早期発見に繋がります。
位置については、上の図を参照してみてください。
(2)末期症状:痩せ細る、呼吸困難など
下記のような症状がでてきたら、残念ながら末期症状の可能性が高いです。
- 急激にやせ細る 犬も人間同様、末期がんになるとやせ細ってしまいます。どんなに食べても、がん細胞は筋肉さえも分解して病気を進行させるエネルギーにしてしまうのです。
- 突然苦しみぐったりする、歩かなくなる リンパ腫になると、脾臓(ひぞう)が腫れてきます。限界まで腫れた脾臓が体内で破裂し、大量出血で突然亡くなることもあります。おそろしいことに脾臓破裂はその瞬間まで症状がなく、予告なく突然起こります。突然苦しみ出したり、ぐったりしたりしている場合は、脾臓破裂の可能性が高いです。様子を見ずに、できる限り早く動物病院に連れて行き、早急に脾臓の摘出と止血処置が必要です。脾臓が破裂して手遅れの場合、破裂から数時間〜1日で亡くなってしまいます。
- 呼吸困難になる リンパ腫により胸の中に腫瘍が作られた場合、腫瘍が気管を圧迫して呼吸や咳が出て苦しくなります。胸の中に水もたまりやすく、更に気管や肺が圧迫されて苦しくなります。動物病院で胸に溜まった水は利尿剤を使用し尿として排泄させたり、直接胸に針を刺してたまった液を抜いたりする処置が必要となります。
- 頻繁に吐く 腸閉塞(ちょうへいそく)になると頻繁に嘔吐するようになります。リンパ腫は腸に発生する場合もあり、腸に腫瘍ができると食欲がなくなり、頻繁に吐くことが多いです。腫瘍によって腸が塞がれてしまうと、食べた物が腸を通らなくなってしまい、命に関わります。
9.治療
- 残念ながら完治はなく、治療ではなく延命が目的となる
- 炎症をおさえるステロイドという薬の投与で、一時的に症状を楽にする選択がある。その場合1~2ヶ月前後の延命ができる可能性がある
- 抗がん剤を使用した延命では6ヶ月~1年半前後の延命ができる可能性があるが、副作用との戦いになる
- どこまでの延命をするかは、飼い主さんの意志による
リンパ腫の発症の原因はいまだにはっきりとは解明されていません。抗がん剤治療が推奨されますが、年齢やがんの進行度によっては、治療に耐えうる体力がない場合もあります。
その場合は、残念ながら完治はなく、苦しみを和らげる緩和的な治療法(寛解と表現)が提案されます。どこまで延命をしたいかは、飼い主さんが愛犬に残された時間を、「どう過ごさせてあげたいか」という意志によるので、じっくり獣医師さんと話し合い決断する必要があるでしょう。
一般的な治療としては、悪性リンパ腫の治療は診断の確定後、主に抗がん剤の投与などによる化学療法を行います。抗がん剤を用いての延命が効いた場合、6ヶ月~1年半生存できることがあります。しかし抗がん剤治療は、愛犬に貧血やだるさ、吐き気などの副作用のリスクもあることを忘れてはいけません。
また、抗がん剤の選択をしない「残された時間をゆっくり過ごさせてあげたい」という飼い主さんはステロイド治療を希望される方も多いようです。
ステロイドは抗がん剤ではないので、根本的ながん治療ではなく、一時的に症状を楽にする薬です。副作用で辛い思いをしてしまう抗がん剤に対して、体へのダメージが少ないステロイド治療は生活の質を優先させたい飼い主さんにとって良い選択肢になります。
また金銭的にも飼い主さんの負担は少ないです。無治療の場合の余命は約1ヶ月以内ですが、ステロイドはその余命を倍くらいの長さに延命できる可能性もあります。
10.予防
- スキンシップを充分にとり、普段から愛犬の体にしこりがないかチェックする
- 動物病院で定期的に健康診断を受診
- 早期発見につとめる
原因が不明確な病気なので、予防は非常に難しいですが、子犬の時期から愛犬の顎や脇の下をこまめに触ってみて、しこりがないかどうか注意深くチェックしてください。 リンパ腫の進行は早いため、2か月も放っておけば、あっという間に衰弱する恐れがあります。 早期発見を心掛けることがこの病気の唯一の予防といえるでしょう。
《編集後記》
犬のがん(悪性腫瘍)は様々な種類があり、全てを理解するのは難しいかもしれません。また、愛犬がリンパ腫になってしまうと、飼い主さんも精神的なダメージが大きいでしょう。もし愛犬がかかってしまったら、獣医師さんと納得できるまで話し合い、治療法を選択しましょう。生まれたときからお世話になっている先生はもちろん、地域で腫瘍科に力を入れている動物病院を紹介してもらうのも良いかもしれません。